魅惑のくちびる
「北野は、すぐに続けてこう言ったんだ。
『オレも田上のことが好きだ。もちろん、友達以上の感情で。
だけど、お前も田上を好きなことに気付いた以上、オレは正々堂々と勝負したい。
今は三人での関係がうまくいってるし、オレだって気に入ってる時間だから、無理矢理壊したいとは思っていない。
もちろん、お前のことも嫌いになりたくないからな。
だから、抜けがけ無しで戦おう。
田上がどちらかを好きになるか、二人ともフラれるか、それとも二人で告白するかだ。』
……オレは、黙って頷いた。
あいつが男としての勝負を望んでいるのをオレが拒むことは、すでにそれであいつに負けるような気がしたんだ」
カップに注がれた紅茶を、テーブルにそっと置いた。
二人を見ているわたしには、雅城の気持ちも、瞬の気持ちも痛いほどよくわかる。
でも、わたしはこの話の結末は確かに知ってるけど、それは雅城と田上さんがつき合ったという事実しか知らないということに気付いた。
雅城と瞬のこんな話がかげにあったことは、雅城からは当然聞いたことがなかったんだ。