魅惑のくちびる
「オレさ、北野にはどうしても負けたくないって思った。
仕事で負けていることは、一年目ながらよくわかっていたから、田上は絶対に自分の彼女にしたいってね。
焦ったオレは、数日後に田上を単独で誘い出したよ。
もちろん、北野には内緒で。」
「なんだか……瞬らしくないね」
「あぁ、そうかもしれないな。
でも、さっきも言った通り、男ってのは意地だとわかってても止まらない時があるんだよな。
今、冷静に考えれば別な方法があるのかもしれないけど。」
瞬はカップを口に運び、紅茶を一口含んだ。
どうあがいても、過去は触ることができない。
“……思い出って、嫌なものは簡単に消せればいいのにな”
嫌な思い出とは、田上さんとの恋が叶わなかったこと以上に、雅城に対してのつまらない対抗心を指しているのではないかと思った。
今の瞬ならどうしているだろうかと考えてみたけど、その経験あっての今の瞬なんじゃないかとか、いろんな思いがぐるぐると頭を巡っていた。