魅惑のくちびる
バッグの中を手でかき回して、キーホルダーを探した。
わたしの足は、いつしか雅城のマンションへと向かっている。
あふれる気持ちは、止まらない。
どういう理由であれ、瞬と身体の関係を持ってしまったわたしを、雅城はもう完全に嫌いになってしまうかもしれない。
でも……それならば自業自得。
それよりも、何も知らないままで誤解だけが進んでいたこの関係を、すべて綺麗にしたいと思った。
「ない……」
鍵は、見つかったんだ。
でも、先端についている、音符のキーホルダーが見あたらない……一体どこで無くしたんだろう。
気付かぬうちに無くしていた、雅城の想いがこもったキーホルダー。
なんだかすごく悪い知らせのような気持ちになって、急に涙があふれてきた。
部屋の前まで来たものの、鍵を勝手に開けることをためらった。
もう、ここを出て2週間は経過している。
会社でも顔を合わせることはほとんどなかったわたしたち。
今会って、うまく話ができるのかも不安だった。
ドアを開けようと手にしている、キーホルダーのない鍵は、わたしの心をきりきりと締め付ける。
見ないように、バッグへと再びしまい込むと、わたしはインターフォンへと指を近づけた。