魅惑のくちびる

たくさんのライトアップされた光と出店のライトとが混ざり合い、辺り一面、夜だと言うのに煌々とオレンジ色に照らされている。

見上げた桜の枝には、もくもくとたくさんのボリュームの花。


ああ、本当に綺麗――。


こんなにも桜は美しく夜空を飾っているというのに、目の前の酔いどれた集団は、誰一人として花を見ようともしていない。

どこも同じだろうけど、お花見と称した飲み会なのだから、仕方ないか。


お花見では、毎年男子社員が中心になったくだらない出し物が行われているんだけど、今年は何か別のことをやれと、幹事の広瀬くんに大北課長が命令していた。

広瀬くんは、去年の新入社員でわたしより一つ下だ。

仕事では大北課長によく怒られていたけど、明るい性格で好感が持て、普段は結構気にいられているっていうのは、見ていたらよくわかる。

ある日突然、大北課長にランチのお誘いがあり、幹事を任命されると同時に新しい指令も仰せつかったというわけだ。

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