魅惑のくちびる
「わたしは、雅城のことが好きで雅城だけを見ていた。
雅城が見ていたものは、わたしじゃなく自分の弱さだったの。
人を疑いだしたらきりがないわ。
人を信じることがすべてではないけれど、それでもわたし、大事な人のことだけは、いつでも信じていたいって思ってる。」
雅城は、いつになく強い口調で続けるわたしの口元を、驚くような目で見ていた。
もし、お互いが以前のように戻るには、お互いの弱さも十分把握することが必要なんだ。
誰しも、弱い部分は隠しておきたいもので、それは雅城も、瞬も、そして、わたしだって同じだ。
けれど、隠すという行為にはいつも後ろめたさがまとわりつく。
嘘を嘘で塗り固める。
不安な気持ちをポジティブシンキングで無理矢理封じ込める。
辛い思いを、笑顔で上書きして表面だけ取り繕う。
……それを継続することで、自分の身が削れていくってこと、気付かないといけないんだ。