魅惑のくちびる

「わたしね……松原さんから、全部聞いたの」

「全部って……何のことだ」

「――田上さんとのことよ。出会った頃のことから、雅城とつき合うまでのこと……」

「あぁ……。」


雅城の顔は、一気に落胆した表情に変わった。


「雅城がなんで、わたしたちのことを周りに言いたがらないのかよくわかったわ。」

「……格好悪い話だ。

オレはあいつに、田上のことを幸せにするって宣言したのにさ。

結局はオレが振られたなんてな。

そして、そんなオレをあざ笑うかのように、今度は松原がオレから璃音を奪おうとしててさ。

どうしようもなく怒りと悔しさがこみあげてきたんだ……」

「だったら……なんで絶対にわたしを渡さないって思ってくれなかったの?

わたしがいくら頑張ってみても、雅城はただ自分の不安を冷たい言葉に変えてぶつけてくるだけで……

雅城は、自分の恥ずかしさとわたしの存在を天秤にかけたのかと思うと、正直言ってすごく悲しいわ!」

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