魅惑のくちびる
「……ごめんだなんて、そんな一言で片づけられないってわかってるから……オレには気軽に言うことできないよ」
「言い訳は自分のため、お詫びは人へ気持ちを伝えるためよ。
雅城の気持ちがいつもわからなくて……ううん、わかってるけど、あまのじゃくな姿にやきもきして……わたし、本当に辛かった……」
子供のように泣きじゃくるわたしの肩に、一瞬手が触れたのがわかった。
でも、すぐに躊躇したその手は、そっと肩から離れていった。
「ごめんな……璃音……。
本当に……ごめん……。」
重苦しい空気の中、ようやくその口から聞きたい言葉がこぼれ落ちた。
いつもの雅城からは想像もできないほど、肩を落とし、背を丸めていて、普段より一回りも小さく見えた。
雅城はそれ以上、何も言い訳をしないまま俯いている。
その姿は、静かにわたしの最後の言葉を待っているかのようだった。
静まりかえる部屋に、シンクの水桶から落ちる水の音だけが聞こえる。