魅惑のくちびる
「わたしこそ……ごめんなさい」
5分ほどの沈黙の後、わたしはやっとのことでそれを絞り出した。
なんと口にすればいいのか、行ったり来たりしてようやく見つかった言葉だった。
「わたしもね、自分の弱さで人を傷つけたんだ。
松原さんも、そして雅城のことも……」
「オレは……大丈夫だ」
雅城は悲しげな顔で、静かに微笑んだ。
「松原さんから、田上さんとのことを聞いてるうちに、いてもたってもいられなくなって、気付いたらここに足を向けていたんだ。
雅城が意地っ張りで謝れない人だってことを知ってるのも、それをよくないと教えてあげられるのも、わたししかいないって……。
……自分の心が痛めつけられるうちに、いつしか忘れていたよ。
そして、それもこれも、雅城が深い愛情をわたしに向けていてくれるからこそだってことも……」