魅惑のくちびる
返事にキレがないのは、やっぱり重症の名残だ。
わたしは、雅城の鼻を豚にして言った。
「こら! さっき言ったでしょ?
わたしはもう、雅城から離れたりなんかしないから……」
「わ……わかってるよ!
松原のことを考えて、心が痛んで動揺しただけだ……」
――ウソツキ。
でも、少しずつでいいんだ。
そうやって前向きに取り組んでくれてる姿が、わたしには感じられるだけで今はすごく嬉しいから。
「そうだ……わたし、大切なものなくしちゃったんだ」
わたしは、いつしか無くなったキーホルダーのことを思い出した。
「あれ実は、すごく気に入ってたんだ。
だからさっき、無くなってることに気付いた時、本当にショックだったの」