魅惑のくちびる
朝から、雲一つない青空が広がっている。
――すっきりと晴れわたる空はわたしの心のようね。
心で独り言をつぶやくと、少しずつ口元がゆるんでいくのがわかった。
久々に雅城の腕の中で眠ったわたしは、家に帰ってきた安堵感も手伝って、たっぷりと充電できたおかげで、まさに気分爽快。
二週間ぶりのベランダで大きく伸びをすると、一気に洗濯物を物干し竿に広げた。
コーヒーを入れながら、瞬にメールを入れ、昼過ぎから会う約束を取り付けて少し落ち着く。
……隠し事はどうも落ち着かなくて、わたしには不向きみたいだ。
「行ってくるね」
支度を終えて玄関に向かうわたしに、雅城が少し不安げな顔を作ったのがわかる。
「ごめんね。なるべく早く帰れるようにするから。」
「……うん、わかった。オレは今日はおとなしくたまったDVDでも観ることにするよ。」
精一杯笑顔を作って送り出してくれる雅城の唇めがけて、そっとわたしの唇を近づけると、カゴバッグの黒いストラップを握りしめて家を後にした。