魅惑のくちびる
「ただし、今度こそ、璃音のことは大事にして貰わないとオレも許さない。
二度もオレから取り上げといて、同じこと繰り返されてるんじゃたまらないよ。
北野にはまた、彼女はオレが幸せにするって宣言させようかな。」
今回は、自分の手に入りかけたものが滑り落ちていっただけに、より辛くせつない気持ちだろう。
それでも瞬は、わたしを思ってか、笑顔を絶やすことなく話を続けていた。
「ごめん……」
わたしには、心を込めて謝ることしか出来ない。
瞬は笑っていた顔を引き締め、優しいトーンで言った。
「オレは璃音が好きだから、璃音が幸せでいられることが一番の幸せなんだ。
オレより北野のそばにいることが幸せだと言うなら、悔しいけれどそれが事実なんだよ。
無理に引き留めたって何もいいことなんてないしさ。
――あぁ、だからオレは、いつも恋が手に入らないんだろうな。」
瞬は優しくて素敵な人。そして、大人。
瞬は一人でも正しい考えを出せるけど、雅城はわたしがそばにいないと危なっかしいんだ。
それは、手がかかる子ほどかわいいという、親の気持ちに似た愛情かもしれない――。