魅惑のくちびる
24:魅惑のくちびる
「おはよう!」
いつものように、瞬……もとい、松原さんが朝イチの挨拶をしながら課内に入ってきた。
「おはようございます」
わたしも軽く頭を下げながら笑顔で返す。
昨日までのことは、そっと箱にしまって、今日からは今まで通り、上司と部下の関係。
それにしても、違和感なくすんなり行くのは、やっぱり松原さんの力だ。
「あれ? 魅惑のくちびる、復活??」
口元のグロスにいち早く気付くあたり、さすがの観察力だ。
「アハハ。今日から解禁です」
わたしの言葉から、即座に誰かの顔を思い浮かべたらしく、ニヤリと笑う。
「また北野にとってはヒヤヒヤな日々だな」
小声でそっと耳打ちするかのように言うと、自分のデスクへと去っていった。
……そう、わたしは今朝から、グロス解禁令が出たんだ。
相変わらず素直じゃない雅城だったけど、それでも精一杯頑張ってる姿がかわいらしく見える。
「璃音……やっぱグロス塗ってる方がかわいいよ。」
コーヒーカップを片手に目はテレビに向けたままで、そう一言口にしただけだったけど、わたしには十分だった。
お礼のキスをすると、早速ポーチで眠っていたヌードベージュのグロスを引っ張り出して、たっぷりと乗せた。