魅惑のくちびる
「璃音さん、手伝いますよ?」
広瀬くんは、ちょうどデータの入力作業が終わったらしく、大物を抱えて大変そうにしているわたしを見つけて駆けつけてくれた。
「ありがとう」
はさみを手にし、腕まくりをすると、二人で作業に取りかかった。
「璃音さん……オレ、謝らないと」
「えっ?なんで?」
急にしおらしい態度で話し始めた広瀬くんに驚き、思わず手が止まった。
「花見のアレ……なんだかいろんな面倒なことになったんじゃないかって……その……。」
広瀬くんは、こう見えても周りを見ている子だってよく知っている。
わたしの困っている姿も、きっとどこかで見かけたのかもしれない。
ピンクの厚紙に力を込めてはさみを入れながら、わたしは笑顔を向けた。