魅惑のくちびる
「だって……恥ずかしいじゃないですか。
それに、北野ファンも多いからなかなかそんなこと、堂々と言えませんよ」
さも、あえて秘密にしていたかのように振る舞う。
ごめんなさい、梶原さん。
もう、これが最後の嘘にするから許して下さいね。
雅城と松原さんはやっぱり口をきかないままだ。
ただし、雅城の方は以前の心持ちとは随分と違うみたい。
「松原のことを思えばやっぱり、なんか声は掛けづらいよ」
自分をライバル視していると知ってしまった今、気安く声を掛けるのは逆に気に障るんじゃないかと気を遣っている。
……それに、わたしが雅城を選んでしまったから、余計に近づき辛いと言った。
いつの日か、また以前のように同期としてお互いを励まし合い、高め合う存在に戻れる日が来るといいと心から願う。