魅惑のくちびる
「璃音。少し、話があるんだ」
食事の後片づけをしようと立ち上がった瞬間、雅城がまじめな顔をして言った。
「片づけてからじゃ、駄目?」
「うん。今がいい」
あまりに真剣過ぎて、少し怖い顔をしている。
そんなに急ぐなら、とわたしはせっかく立ち上がった身体を、もう一度床に落ち着けた。
雅城は、テーブルの上のランチョンマットの隅を折ったり開いたりと落ち着かない行動をしばらく繰り返した後、やっとのことで口を開いた。
「今回さ。オレは確実に璃音を失うって思った。
実際、璃音がここを出て行って、もう二度と戻ってこない……二人はこれで終わったんだって思ったよ。
それもこれも、オレがすべて悪いんだけどさ。
でも、璃音が帰ってこなかった間、そして、帰ってきた時。
オレにとって、璃音がどれだけの存在なのかって、改めて思い知らされたよ。
オレは……璃音がいなくちゃ駄目なんだ。
一人じゃ何もできなくて、気がどこか遠くへ行っちゃってさ。
仕事も久しぶりにミスを出して課長に怒られたしな。」