魅惑のくちびる
次の日は、横からちらちら視線を感じる中で、朝の支度をした。
化粧ポーチの中のかわいいグロスたちは、しばらく出番を失ってしまった。
あぁ、このヌードベージュはこないだ買ったばかりのお気に入りだったのにな。
――ほとぼりが冷めた頃、また出してあげるからね。
仕方なく、久々に普通のマットなリップを取り出すと、くちびるの上にスーッと乗せた。
雅城は、ネクタイを締めながらわたしにばれないようにこちらを気にしている。
「グロス塗ってないよ。これでいいでしょう?」
わたしはあえて、くちびるをとがらしてアピールした。
「あっ、そんなの会社でしたらダメだぞ!」
「しないわよ!一体誰にするのよ、こんなこと。」
――もう、心配性にもほどがあるよ……。