魅惑のくちびる
4:保護者同伴
一週間もすれば、だんだんとあの話題は薄れてくると思っていたのに。
それどころかむしろ、社内中に広まる勢いで噂が一人歩きしていた。
当然、それを耳にするたび、怒りをあらわにする雅城――。
わたしは毎日毎日、そりゃぁもう大変なんだ。
わたしが誘いになかなか乗らないのを知って諦める人もいたけど、一人だけ熱心にも毎日、声をかけてきてくれる人がいる。
今日も給湯室でお湯呑みを洗っていると、突然に背後から声がした。
「璃音ちゃん。そろそろ今日あたり、空けておいてくれた?」
「あ、松原さん。お疲れ様です。」
彼は、わたしと同じ販売流通課の2つ上の先輩。
つまりは、雅城と同期にあたる人だ。
「そう毎日断られたら、さすがにオレは嫌われてるんじゃないかって、心配になっちゃうよ。」
二人は仕事も同じくらいできる人だけど、人気度も同じくらいかもしれない。
隠れファンが多いと以前誰かに聞いたことがあるけれど、なんとなく納得できる。
雅城とは反対に、目は少し細めできりっと目尻に向かって上がっている。
ほどよく鍛えられた少し細身の長身で、髪は黒髪がよく似合っていて、ちょっとワルっぽい雰囲気が、松原さんのかっこよさを鋭く引き立てていた。