魅惑のくちびる
給湯室の換気扇の下でタバコを吸うのが日課の松原さんと、ここでこうして会う度にお誘いがかかる。
「……松原さんのこと、嫌いになる女性社員なんていませんよ。」
もう、断る台詞もバリエーションが尽きてしまい、ただただ愛想笑いをしてその場を乗り切るしか方法が思いつかない。
そもそも、松原さんになんで彼女がいないのか、女性社員はみんな不思議がっていた。
あまりに不思議なので、男性が好みなんじゃないかとか、良からぬ噂も出たほど。
こんなことを言うとみんなに反感を買うからずっと黙っていたけど、わたしは以前何度か、松原さんに食事やお酒に誘われたことがある。
当然……雅城のことがあるから断ったけれど。
でも、今こうしてまた、毎日声を掛けてきてくれるのはやっぱりお花見のあの一件のせいみたい。
「――またそうやって話をはぐらかす。
あの花見の騒動で男性社員はみんな一気に敵になっちゃったからね。
こうして毎日でも声を掛けなくちゃ、璃音ちゃんに悪い虫が付いてからじゃ遅いんだよ。」
まるで、雅城みたいな言い方をするんだから……。
わたしはこれ以上のお断りはどうすればいいんだろうって、一生懸命頭を捻っていた。