魅惑のくちびる
「へぇ。何度も、か。」
その言葉の意味が、わたしには痛いほど突き刺さるのに、松原さんには当然伝わるはずもなく。
「あぁ。かわいそうだろ? オレ。だから頼むよ。北野の援護が必要なんだ。」
あろうことか、更に油に火を注いだ。
お願い、松原さんもう止めて。
わたし、帰る家がなくなっちゃうよ。
雅城は、聞こえないくらいの小さな咳払いをすると
「とりあえず、19時までには仕事やっつけてみるわ。」
とだけ答えた。
目線はしっかりと、わたしの方を見つめながら……。