魅惑のくちびる
「あの……松原さんが彼女いらっしゃらないのって、もしかして作らない主義とかですか?」
こんな質問、取りようによっては立候補してるみたいかも。
――どうもわたしは、言ってしまってから気付くことが多すぎる。
「主義じゃないんだけどね。
好きな人になかなかアプローチができない、シャイなやつなんだよ。」
松原さんは、エスプレッソの香りを楽しむように目をつぶった。
良かった、下手に勘違いされたらこじれるところだった――。
「近くにいるのに、想いって伝わらなくてさ。」
わたしも、雅城に片思いをしている頃は毎日せつなかった。
こんなに近くで仕事してるのに、わたしの胸の内が見えないことがもどかしかった。
松原さんも、そんな気持ちなのかもね。
「それ知ったら、多くの松原さんファンが悲しみますね。
わたし、内緒にしておきます、松原さんに想う人がいるってこと。」
松原さんは目だけ動かすと、よろしくねってにっこり笑った。