魅惑のくちびる
「しかし。あのアンケート、開票結果は凄かったらしいよ。」

暇つぶしに持ち出しただけなんだろうけど、わたしには、お花見ネタはもうお腹一杯だ。

悪気のない松原さんに、もうその話はやめて下さいだなんて言えない……。


「キスしたい人。璃音ちゃんがダントツ1位で、2位は2人、3位は1人しかいなかったって。」

「わたし、それに何て答えたらいいかわかりません……」

「いいじゃない、魅力的だってみんなが認めてるってことだもん。

悪いことじゃないと思うけどな。オレももちろん、一票投じた人間の一人だし、1位は嬉しいよ。

ただ、ライバルが増えたのは誤算だったけどね。」


ふざけて言っているのかすらわからなくて、わたしはもじもじしながら俯くだけだった。

「魅惑のくちびる、って誰がいい始めたんだろうね。

でも驚くほどぴったりのネーミングだ。今日はグロスじゃないみたいだけど、それもまたかわいいよ。」

松原さんのあまりにストレートな褒め言葉も、わたしには刺激が強すぎる。

恥ずかしさの余り、見えなくなってしまうようにくちびるを思い切りかみしめた。

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