魅惑のくちびる
「随分と楽しそうな話題だな。」
ふてくされた、低い声……雅城だ――!
「おぉ、北野。まだ19時前じゃん。言ってたのより早かったな、仕事は終わったのか?」
テラス席はいちいち道行く人を気にしていたら、ゆっくり飲めない場所。
……にしても、松原さんもわたしのどちらもが、雅城に気付かなかったのはうかつだった。
「早くて悪かったな。邪魔したか?」
明らかに浮かない顔の雅城と目が合わせられなくて、わたしはまたテーブルのペーパーカップに目を落とした。
「いや、ちょうど話が切れたところだ。さて、行こうか。」
わたし、何も悪いことしてないのにな……。