魅惑のくちびる
6:折れた天使の羽
雅城の機嫌はもう、ちょっとやそっとでは直りそうにないみたいだ。
わたしとあまり目を合わせようとしないのがわかる。
イベリコ豚のグリル、海老とブロッコリーのサラダ、軟骨とカシューナッツの炒め。
次々と運ばれてくるどのフードにも、満足そうな様子で箸を付ける松原さんは、雅城のことなど全く気にも留めていない様子だ。
「北野、今日はあまり食欲がないのか?」
「いや。そういうわけじゃないけど。ただ、気分は良くないかもしれないな。」
……わたしにはその言葉が針のように感じる。
「なんだ、具合悪かったのか、それは気付かなくて申し訳ないことしたな。
今日はオレがおごるから許せよ。」
鈍感なのか、見て見ぬふりなのか、それとも単にわたしが気にしすぎなのか――。
わたしはさっきから、のどを通ってゆく食事の味がわからないままだ。