魅惑のくちびる
「そんなにこの場が嫌だったのか。
お前の気持ちもわからずに、無理やり付き合わせて悪かったよ。
――ごめんな、璃音ちゃん。もうココ出よう」
スプリングコートを腕に掛けると、わたしの袖を持って引っ張った。
「あっ……あのっ……」
止めてはくれないの?
すがるような目で雅城の顔を見たけど、あちらを向いたままで静かに言い放った。
「あぁ。彼女との席にはもう二度と誘わないでくれ。」
全身から、一気に力が抜けるのがわかった。
そんな雅城……見たく無かったよ。
わたしの目から大粒の涙が落ちた。
おそらく涙の意味を理解していない松原さんは、わたしのコートを手にすると、優しく肩を抱いて出口へと向かっていた。