魅惑のくちびる
「こんなことになるなんて……ホントごめんな。
オレがあのまま我慢さえしていたら、璃音ちゃんを傷つけずにいられたのに。」
春の夜風が、頬を心地よく通り抜けてゆく。
松原さんは、街の中心に流れる川にかかる橋の欄干にもたれていた。
わたしは俯いたまま、川沿いに咲く菜の花を見つめていた。
雅城は、どうして最後まで本当のことを言ってくれなかったんだろう……。
わたしと付き合っているって松原さんに言うのが、そんなに嫌なのかな。
「オレが自分の欲望を満たすためにしたことで誰かを傷つけた、
それが一番悔しいんだよ。
相手はしかも――オレが想いを寄せる、大切な人で。」
「松原さん……」
真剣なまなざしの奥からは、冗談とは違う強いものをはっきりと感じた。
わたしは今、告白されてるんだ。
でも……わたしは雅城の彼女なんだよ、松原さん。