魅惑のくちびる
「さっき、天使だって褒めて下さいましたよね。
お世辞だとしても、わたしとっても嬉しかったんです。
――ううん、わたしじゃなくても、女の子なら誰でも嬉しいと思います。
松原さんはいつも優しくて、かっこよくて、振る舞いがスマートで……憧れてる子が多いの、よくわかります。」
よくある、カップルの語らいだと思っているのだろうか、道行く人はわたしたちを気に留める様子はない。
様々な人が行き交うこの橋で、今目の前のこの人が愛の告白をしたなんて、誰が思うだろう。
「オレは、好きな人が振り向いてくれさえすればそれで満足だ。
女の子に人気があるっての、悪い気はしないけど、さほど自慢なわけでもないよ。」
「羽が……折れてしまったんです。しばらくわたし、飛べなくて立ち止まったままだと思います。」
自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
でも、今は何も考えられない――それが正直な気持ちだ。
雅城と別れるとか別れないとかではなく、とにかく思考回路が停止しているんだ。