魅惑のくちびる
わたしが桜を見上げてうっとりしていた頃、用意したマイクを持った広瀬くんの司会で、メインイベントである投票結果の発表が始まっていた。
「それでは、栄えあるナンバーワンに輝いた人たちの発表に移りたいと思います!」
いつ着けたのか、首には宴会用の大きな蝶ネクタイ。
こういう準備は本当に万全で、感心してしまう。
「まず、仕事で頼れる人に選ばれたのは……われらが大北課長です!」
おおーと、あちこちから拍手。
課長は確かに恐いけれど、指摘も的確でその通りやれば間違いないし、何よりも労りの言葉を後で必ずかけてくれるからこちらもすぐに立ち直ってまた頑張ろうと思える。
さすがは、長になるだけの人だと思う。
何か一言ください、と言われた課長はにんまりとしながら口を開いた。
「ワハハ。まあ、当然っちゃあ当然だな。おい広瀬、お前もいつかこうやってみんなに評価されるように頑張れよ!」
大北課長の言葉に小さくなってる広瀬くんの姿は、まるでコントをやっているかのよう。
うちの部署でいつも見慣れている光景でもあり、お約束の流れにみんな喜んでいた。