魅惑のくちびる
「おはよう。お花、綺麗だね。」
頭を切り換えようと、広瀬くんの手元の花を指さして言った。
「あぁ、コレ。うちの母ちゃんが花がある職場にしろってウルサイんっすよ。
ちなみに、カラーの花言葉って、何か知ってます?」
広瀬くんは、花瓶の中の白く可憐な漏斗(ろうと)のような形を、こちらに向けて見せた。
「璃音さんにぴったりっすよ。
『乙女のしとやかさ』とか『すばらしい美』なんだそうです。
朝飯の時に、かあちゃんに擦り込まれましたよ、アハハ。」
屈託のない笑顔で、知識をさっそく披露できたと喜んでいた。
こうして、みんなが褒めてくれるほど、わたしは自分に魅力を感じる部分は持っていない。
だからこそ、なんだかそのたびに申し訳なく思えていた。
松原さんがあんな風に思いを寄せてくれることも、嬉しいのに素直に大喜びできないのは、そういう理由もあるのかもしれない。
――でも喜べない一番の要因は、雅城には違いないのだけれどね。