魅惑のくちびる

「おはよう。お花、綺麗だね。」

頭を切り換えようと、広瀬くんの手元の花を指さして言った。

「あぁ、コレ。うちの母ちゃんが花がある職場にしろってウルサイんっすよ。

ちなみに、カラーの花言葉って、何か知ってます?」

広瀬くんは、花瓶の中の白く可憐な漏斗(ろうと)のような形を、こちらに向けて見せた。


「璃音さんにぴったりっすよ。

『乙女のしとやかさ』とか『すばらしい美』なんだそうです。

朝飯の時に、かあちゃんに擦り込まれましたよ、アハハ。」


屈託のない笑顔で、知識をさっそく披露できたと喜んでいた。


こうして、みんなが褒めてくれるほど、わたしは自分に魅力を感じる部分は持っていない。

だからこそ、なんだかそのたびに申し訳なく思えていた。

松原さんがあんな風に思いを寄せてくれることも、嬉しいのに素直に大喜びできないのは、そういう理由もあるのかもしれない。


――でも喜べない一番の要因は、雅城には違いないのだけれどね。

< 57 / 240 >

この作品をシェア

pagetop