魅惑のくちびる
「ごめんごめん。お待たせ!」
渋滞に巻き込まれ、待ち合わせより少し遅れるとメールがあったのが、今から5分前。
「焦ったよ。途中、工事で回り道させられた上に渋滞だからね。
車にプロペラがついてればいいのになぁって、本気で思ったよ。」
様子では15分くらい遅刻しそうな雰囲気だったのに、きっとスピードをあげて走ってきたんだ。
あいにく、天気は雨のままだった。
黒い大きな傘を広げた松原さんは、コンビニの軒下のわたしを相合い傘の相手にすると、助手席までエスコートしてくれた。
「まいったな。誘った時に、雨かどうかまでは下調べしてなかったんだよ。」
袖の雨粒をタオルで拭き取りながら、わたしにも濡れていないかどうかと確認した。
「かっこいい車ですね。」
黒の国産のスポーツカーは、車を知らないわたしでもかっこいいデザインだとわかった。
「掘り出しものだよ。新古車ってわかる? つい嬉しくて毎日乗り回しているよ。
しばらくの間は、給料もボーナスもローンに充てないといけないし、つつましい生活になるけどね。」