魅惑のくちびる
車を1時間ほど走らせたところに、この辺で一番大きな水族館がある。
一度しか行ったことがないから、できればもう一度行ってみたいと思っていたんだ。
「その時は、デートで来たの?」
雨足が次第に弱くなってきたのに合わせ、松原さんはワイパーの速度を一段階落とした。
「いいえ、友達とです。なんだかデートに水族館って、提案しづらくて。」
今までの彼氏は置いといて、雅城に関しては特に提案しづらいんだ。
「静」と「動」なら、完全に「動」な雅城には、水族館のあのまったり加減が似合わない。
「オレとなら、デートっぽくないから提案しやすかったって、良い方に受けとっておくよ」
信号待ちの間、時々こっちを見る様子に気付きながらも、この狭い空間に緊張して、なかなか松原さんの方を見ることが出来なかった。
「特に深い意味はないんです……今回は、イメージがぱっと浮かんだだけで」
「ハハッ、わかってるよ。そんなに気にしないで、オレ冗談も言えなくなっちゃうよ。」