魅惑のくちびる
雅城の隣にいるのと、松原さんの隣とでは全然わたしの気分が違うことに少しずつ気付いていた。
今日の方が、格段に楽なんだ。
雅城に気分を悪くさせないようにとか、言いにくい事は別な言葉に変換して言い換えたり。
いつもしている気遣いを今日は全くすることがなく、むしろ気を遣って貰ってるんだ。
しかも、それはとてもさりげなく、わたしに負担にならないようなやり方で。
「良かった。もう、天気は崩れることななさそうだな。」
水族館に着いた頃にはすっかり雨も上がっていた。
雲の間からは薄日も差し、目に見えて回復してゆくのがわかった。
傘を畳み、外へ出ると人はそう多くはなかった。
「オレたち、超ラッキーだな。さぁ、行こう」
松原さんは、車のキーを手でじゃらじゃらと音をさせながら、入口へと向かった。