魅惑のくちびる

館内は子連れと同じくらい、カップルも多く、わたしは少しだけほっとする。

ピラルクの前の椅子に座った松原さんは、しばしここにいたいと言った。

昔からなぜか好きで、特別大きなあの姿を見るのに、10分15分費やすのは平気だと笑った。

「あれ、生息地の川の近くじゃ、食用としてるらしいよ。単純な発想として大味なんじゃないかなって思うけどどうなんだろうね。」

「切り身にするのすら大変そうですよね。」

こんなどうでもいい話が、とても楽しいと感じるのは、小さなストレスがないからだろう。


今までのところ、自分でも驚くほどに、雅城への悪いという気持ちはこみ上げてこなかった。

わたし、どうしちゃったんだろう――。

自分で自分がよくわからなくなる。

ヤケを起こしているにしては自暴自棄になっている風ではないし、後ろめたい気持ちでいっぱいかと言われたらNOだった。


松原さんの隣が、心地よい。

好きになっちゃったとかじゃなく、単純に居心地が良いと思ったんだ。

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