魅惑のくちびる

「よっしゃ。ピラルクも腹一杯見物したし、ペンギンでも見に行くか?」

立ち上がった松原さんが、思い出したように言った。


「そうそう、今日オレ、デジカメ持ってきてたんだ。ペンギンの前で一枚、撮ろうな。」


自分のお尻のポケットを、丸めたパンフレットで2回叩いた後、階段に向かうようわたしを促した。




熱帯魚の群れを見ていたら、突然フラッシュが光り、思わずそちらに目を向けた。

「もう、松原さん……今撮りました?」

わたしが少し膨れてみせると、目線を上に向けてとぼけた素振りをした。

「鮮やかな魚たちと璃音ちゃんがすごく似合ってて、おもわず一枚。」

画像を再生したディスプレイを、わたしに向けて見せてくれた。


わたしはともかく、熱帯魚の色が綺麗に撮れてる。

欲しいと思ったけど、残念ながら貰えないことに気付いて、少しがっかりした。

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