魅惑のくちびる

松原さんに見つからないように、こっそり携帯のサブディスプレイを確認する。

……やっぱりメールは来ていない。

今日は、雅城が休日出勤だということしか知らないし、雅城だって、わたしが今日何をしているのかわからない。


――付き合ってからこんな事、初めてだ。


わたしは尋ねなくても、雅城がわたしの行動を尋ねるのは日課のようだった。

……少しくらい、ヤキモチじゃなく本当に心配してみたらいいんだ……。

わたしらしくない、ヤケ気味の思い。


「あんまり、浮かない顔」


松原さんが、ちらっとこちらを見た。

「あっ……いえ、そんなことないです……わたし車あんまり強くないみたいで……ごめんなさい。」

白々しい嘘と、わかっていてついてしまうわたしは、本当に嫌な奴だ。

< 73 / 240 >

この作品をシェア

pagetop