魅惑のくちびる
えっ……ええ? わたし……!?ともぞもぞしているわたしの手首を掴んで立ち上がらせた広瀬くんは、にこりと笑った。
「ホラ、みんな待ってますから。璃音さん、感想どうぞ!」
向けられたマイク、みんなの興味のまなざし。
次第に鼓動が早くなり、何か言わなくちゃと思っても、口がうまく開かない。
「あ、あの……」
「璃音さん、またぼーっとしていたんでしょう? 今、璃音さんはめでたく『販売流通課 キスしたい人 No.1』に選ばれたんですよ!」
パチパチパチ――!
広瀬くんの言葉に、一斉に拍手が湧き起こった。
「これって喜んでいいのかよくわからないんですけど……ひとまず、ありがとうございました」
なんとかひねり出したものの、笑いの一つも取れず、飲み会のお遊びにしどろもどろになったかっこわるい姿の自分に、ただただ嫌悪感。
「ちなみに、選出理由なんですけど……結構みなさんエッチですね!」
司会者のニヤニヤ顔につられて、周りをぐるっと囲うみんなまで同じ顔をしている。
わたしは恥ずかしくて、桜の木に隠れるように後ろに回った。