魅惑のくちびる
月曜日の朝は、午前中の定例会議を控えていて、課内が全体的にざわざわと忙しい。
そんな中、一人颯爽と急ぎ足で私に向かってくる人――。
「おはよう、璃音ちゃん。こないだはどうも。
早速提案なんだけどさ、今日からランチ一緒に行かない?」
出勤した松原さんは、バッグも置かずにわたしのところと向かってきた。
小声で話してはいるものの、松原さんが歩いているだけで目立つ。
しかもコートも脱がず、バッグも持ったままで何事か?と、課内中の人が見ている気がしてとても恥ずかしくなった。
いつものわたしなら、ぐずぐず考えていただろう、その答え。
でも今日は、悩まずに即答していた。
「はい。わかりました。」
無視して話してくれない人に、気を遣う必要なんてないよね……。
わたしは所詮、自分がかわいいのかもしれないけれど、これ以上自分が傷つきたくないって思ったんだ――。