魅惑のくちびる
わたしは、梶原さんの隣のデスクで仕事をしている。
少し長めの朝礼を終えて椅子に座った途端、キャスターを滑らせながらわたしを目がけて近寄ってきた。
「ねぇ……。ちょっと気になってたんだけどさ。
璃音ちゃんの彼氏って、松原さん?」
予想外の質問で、答えを当然用意していないわたしは、えぇーと大きな声を上げてしまった。
コホン、と小さく大北部長が咳払いのまねごとをすると、みんながどっと一斉に笑い、わたしは小さくなってしまった。
「すみません……」
「いや。元気なのはいいことだけど、仕事の準備もよろしくな」
隠れるように座って、梶原さんを小声でつついた。
「びっくりさせないで下さい!」
「いやいや。前から少し思ってたんだよね。妙に仲良いし。
知らないかもだけど、最近給湯室でよく二人が話してるって噂があるよ。」
えぇ……っと今度は、うまく口を押さえるのが間に合った。