魅惑のくちびる

「よっ」

突然の声に驚いて、思わずスプーンのコーヒーをシンクにばらまいてしまった。


「わっ!!……ま、松原さん!?」

――ずらしてきた意味、ないよ……。


「今さっき、会議終わったんだ。奇遇だな、ホント」

わたしが時間をずらしたことに気付いていない発言からすると、どうやら松原さんは決まった時間にここに来ているのではないみたいだ。

しかも……今日は会議だったから、結果的にわたしが松原さんに合わせたことになる。

「そんなに驚かなくてもいいだろ。あーあ、コーヒーダメにしちゃって。」

松原さんは、タバコをくわえたまま、片づけを手伝ってくれようとしていた。

「大丈夫です……わたし、ドジでいつもこんなことばっかりなんで、慣れてますから」

「璃音ちゃん、ほんとかわいいなぁ。

――ところでさ、ランチ。例のカフェでパスタとかどう?」

「わかりました。お昼になったら、また伺います」

話をしていても、後ろが気になって落ち着かないわたしは、2杯目のコーヒーをばらまいた……。

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