魅惑のくちびる
「アハハ。オレがいたらうまく入れられないみたいだから、先行くね。」
そうしてくれた方が助かります、なんて言えるわけもなく。
すみません、と小さく謝った。
思わぬ炊事仕事に手がびしょびしょになったわたしは、一旦ハンカチをとってこようと、マグをそのままで給湯室を飛び出した。
「痛っ!?」
前を見ているつもりが……出口で、別の課の女の子とぶつかってしまった。
「すみません……大丈夫ですか!?」
――あぁ、わたし今日はもうダメだ……。
昼下がりのカフェは、人が多い。
わたしたちのようにランチで使う人の他、単純にお茶だけする人も混ざっていて、ゆっくりくつろぐという雰囲気ではない。
それでも例によって、会社の近くというのはやはり便利がいいから週に2回は利用している。
「これだけ来ると、全部のメニューに評価をつけられるよな」
「確かに……でもわたし、だいたい同じものを注文してしまうんです」
「ハハッ、璃音ちゃんらしいや。冒険心あまりない方でしょ?」
……褒められているのか、けなされているのか、わからない。