魅惑のくちびる

「お待たせ!」

様子だけ伺うつもりのメールがだらだらと尾を引き、結局わたしと由真は夕食を一緒に摂ることになり、近くのビルの地下へと潜った。

「なんか気取ったレストランって仕事帰りに肩凝るからさ。やっぱここが一番落ちつくわ。」

由真は、このチェーン店の居酒屋が大好きなんだ。

夕食とも呼べない食事だけど、どうせ喋るのがメインだからそのくらいでちょうど良い。


店内は早くも賑わっている。

会社帰りのサラリーマングループとOLグループ、おじさん3人組……見渡せば、どこもかしこも一目で会社勤めとわかる人たちばかり。

大きな声で陽気に盛り上がっているのも、真っ赤な顔してくだを巻くのも……

会社のストレスはここでしか吐き出す場所がないんだろうと思うと、少しくらい目をつぶろうと思える。

悪く言えば、ストレスの溜り場。当然、そんな陰気なものが集まっても、空気が良いわけがないのだけど。


そんな酸素の薄い店内の片隅で、わたしと由真はグラスを合わせた。

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