魅惑のくちびる
「あたしはまだ、そんな噂聞いていないよ。
でも、もし本当なら……明日とかにはこっちまで来そうだね。」
お通しのマカロニサラダは、一口食べただけで業務用パックの出来合いの物だとわかる。
チェーンの居酒屋だもの、そのくらい承知してるから文句は言わないけど。
「ひとまず、今日は一安心。それだけで随分違うよ。」
わたしはほっと胸をなでおろした。
「ところでさ、そもそも北野さんとは、あれ以上こじれなかったわけ?」
由真に余計な心配をかけたくなかったわたしは、松原さんと雅城とでランチに行った時点での状態までしか話していなかった。
「うーん……それ言われると痛い。あれからとんでもないことになっちゃってるんだ」
「どういうこと?」
――詳細を話したいのは山々だけど、今日のわたしにはそんなパワーは残っていない。
「うん……もっと元気が有るときに話す。ごめんね。心配かけて。」
顔色を見て、状況がなんとなくわかるのは由真のすごいところ。
よく、女の子が相づち代わりに軽く掛ける「大丈夫?」ってのとは違った、深層まで理解しての心配だ。