魅惑のくちびる

怒りを正面からぶつけてくる分、好きな気持ちも正面から伝えてくれるところ。


会社でうまく行かなかった時、上司に怒られた時、

わたしが悪くても、相手側を否定して怒りまくってる姿が、子供みたいで。

でも……嬉しくて。


おやすみのキスを忘れたら、本気で拗ねてそっぽを向く。

ベッドでは、自分よりも、わたしがいいと感じるのが優先で。

たまたま見つけた「♪」のキーホルダーを買った自分が、いかにすごいかと自慢してみせて。


あぁ……雅城の好きなところ、挙げたらきりがないよ。


「ハイハイ、わかってますよーだ。璃音はそれで満足なんだもんねー。

でもさ……なんか勝手な話だけど、璃音から雅城って言葉が出てこないのも、あたしには逆に心配だよ。


――最近北野さんと、ちゃんとうまくいってるの?」


コップの端を噛みながら、目は真っ直ぐこちらを向いたままの、鋭い由真の言葉。

わたしは相槌すら出なかった。
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