巫女と王子と精霊の本
私はすぐにエルシスの部屋に向かい、先程の話を話した。
「…竜が…来る…だと?」
エルシスは目を見開いて私を見る。
やっぱり驚くよね……
エルシスの様子だとこの世界、アルサティアは争いこそあるがそれなりに自然に恵まれていたんだと思う。
嵐なんて来ない、天に愛された世界……
「竜はこの世界に前も現れたんでしょう?ま、みんなが言うにはだいぶ前みたいだけど」
みんなとはもちろん、馬さん達の事だ。
「…だが、俺達は伝承でしか聞いた事がないぞ?マヌラ族なんて初めて聞いたしな」
エルシスも知らないとなると、本当に昔の話なんだ。となると竜について知ってる人を探すのは骨が折れそう……
「巫女サマ、竜なんて伝承の中の化け物でしょ?そんなのが来るわけないって」
セキは信じてないみたい。
エルシスも半信半疑かな……
二人を見てると、他の人に聞いても伝承でしかないのかもしれない。
「…それでも………」
私が何とかしなくちゃ……
守るんだ、このアルサティアを……
「お願い、エルシス。マヌラ族の女の子を探して!私だけじゃ間に合わないの!セキもお願い、あなたの情報網で探して!」
出来なければ世界が滅ぶんだから………
「鈴奈……わかった、すぐに伝令しよう。俺はお前の事を信じてるからな。だから、そんな泣きそうな顔をするな」
エルシスは優しく私の頭を撫でた。
そして力強く頷く。
「お前の導きを無駄にはしない。そしてあのような悲劇は二度と繰り返さない」
「…エルシス…。私もエルシスを、信じてる。力を貸して」
「あぁ」
エルシスと私は手を重ねる。
フェル、どうか私達を守って。
本の産みの親であり、誰よりもこの物語を愛する妖精を想う。
「…ごほん、俺も探してあげる。だから俺とも握手ね」
私とエルシスを引き離し私の手を握りしめる。
「セキ、お前気安く鈴奈の手を握るな!」
「なに?王子だって触ったじゃん」
怒るエルシスを無視してセキは私を見る。
「ありがとう、セキ」
「巫女サマのご命令とあらば何でもいたしますよ?」
セキはふざけながらも力を貸してくれると言ってくれた。
私は…私に出来る事をしよう!!
そう改めて決意した。