巫女と王子と精霊の本
「エルシス、竜と戦うんだね?」
私はまっすぐにエルシスを見つめる。エルシスは私の言葉に驚いた顔をした。
「鈴奈にはお見通しだったか。兵を待たせてある、お前は安全な所に…いや、安全な所なんて無いかもしれないが、ここからすぐに離れろ」
離れろ……?
安全な所にいろ……って!!
「エルシス!もう忘れちゃたの!?」
私は怒りと悲しさが混じったような思いでエルシスを怒鳴る。
「鈴…奈……?」
エルシスは驚いたように私を見る。
この様子だと、エルシスは私が怒ってる理由をわかってない。
「……俺達を導いてくれ、エルシスはそう言ったよね」
「あ、あぁ……」
「そして私はあなたを導くと言った。私はあなたの傍で、あなたを導く。それがどんなに危険でも、だよ。そんな覚悟を込めてあなたに誓ったの!」
私はこれからエルシスとアルサティアに起こるであろう災厄を知ってる。
だからこそこの人の傍にいることがどんなに危険かもわかってる。
「一緒に戦う覚悟をあなたにしたんだよ」
私に剣は握れない。
でも私には本がある。
でも、私なりの戦い方で戦う事は出来る。
「…お前ってやつは……。俺はお前を守らなきゃと思っていた。争いなど目にする事のないようにと。女はそうやって守ってやらなきゃすぐに壊れてしまうと…。だが、お前は戦うと言う。この戦場に立ち、俺を導くと…」
エルシス……………
エルシスが私を守ろうとしてくれているのはわかる。
でも私は、それだけじゃ嫌。
傍にいて支えたい。
この過酷な運命を持った王子の傍に…
「お前のように強い女と出会ったのは初めてなんだ。悪かった、お前の覚悟を無視するような事をして」
「エルシス……」
「お前の事は命をかけて守る。だから共に戦ってくれ、俺の傍にいて俺を導いてくれ」
やっと……私の欲しい言葉を言ってくれた……
「あたりまえだよ、エルシス。傍にいる、あなたが幸せになるその日まで」
この物語が終わるその時まで…
私とエルシスは手を繋ぎ走った。
竜との戦いの地へ。