巫女と王子と精霊の本


「…鈴奈」


不意にエルシスが私の名を呼んだ。



「……エルシス……」


私はエルシスを見上げる。
エルシスは笑っていた。



「大丈夫だ、鈴奈。俺は負けない」



私の頭を優しく撫でる。



不思議……
エルシスが言うと本当に大丈夫だと思える。



震えもいつのまにか消えていた。




「………弓兵、構え!!」


弓兵は弓を引き絞り、狙いを竜へと定めた。



「グォォォオッ!!」


竜が大きな口を開けた瞬間―……



「放て!!!」




弓が竜へと放たれる。


だが、竜は吐き出した炎で矢を焼きつくし、町や人をも焼いた。



「ぐああぁっ!!」

「あ、熱い!!」



また悲鳴が上がる。これは地獄絵図だ。



「い、嫌…嫌っ!!」

「セレナ!」


セレナは泣きながら耳を塞ぐ。


セレナを抱きしめた。
何とかしなきゃ…何とか……!!


「くそっ…竜よ!!焼くなら俺を焼け!!ま、簡単には殺らせないがな!!」

「エルシス!?」

「は、王子って大胆…」


セキも苦笑いを浮かべる。


竜は私達、否、エルシスを見つめる。
そして、竜は大きく口を開けた。



炎がくる……

「セキ、セレナを連れて離れて…」



私は前を見据えたままセキに話しかける。




「何の冗談?巫女サマはどうすんの?」


「……大丈夫、死ぬつもりはないから」


死なない、死なせない……



私達を守ろうと自ら危険に飛び込むエルシスを死なせない。




「お願い、セキ。セレナを守って…」

「じゃあ鈴奈は誰が守るんだよ!絶対に離れない、あんたになに言われてもね」

「…セキ……」



そうだよね……
私と同じ、自分だけ逃げるなんてできないね……



「わかった、ごめん、傍にいて。そうすれば私も戦える」



守るものが背にある、だから負けられない。エルシスの気持ちが少しわかったきがした。





「っ……来るか!!」



エルシスは大きく剣を振り上げる。



「お願い……誰か……」


力を下さい……


この人を守って……!!


『鈴奈―…』



―え…?


名前を呼ばれた気がした。
これは……


『大丈夫だ、わたしがいるのだからな』



聞き覚えのある声……これは……



「エクレーネさん!!」



ーゴワーッ!!

―バチバチバチッ!!


水の盾が炎を打ち消す。

「…な…んだ……?」


エルシスは目を見開いて私を見ていた。


私の胸の契約印が青く輝いている。

「巫女サマ、まじで本物だったんだ…」



セキも驚いたような私を見つめる。












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