巫女と王子と精霊の本
―すみません、わからないんです。私の世界でも、このように別の世界に来られる人間は普通はいないですから…
そう、私だけ特別だった。
フェルと出会ったから………
『なら何故お前はこの世界に来られる?』
―私はある人から頼まれてこの世界を正しき未来に戻す為にここにいます。
『…じゃあ、お前は…この世界の人間じゃないのか……?』
「……っ…………」
胸がチクリと痛む。
エルシス…本当に私を心配してた。だからこそ裏切られたと思ったよね…
「…ごめんね…エルシス…。記憶が無いなんて嘘、私には欠けた記憶なんてない…」
心話ではなく言葉でエルシスに伝える。
「…鈴奈…どうして嘘なんかついたんだ…?俺には話せなかったのか?俺とお前の信頼はその程度か?」
「違っ……違うの…。私は…」
いや、違わないね……
いつかこの世界から消えるから…
全てを終えたら帰らなきゃいけない、私はずっとここにはいれない。
巫女が、いつでも自分の世界に帰れると知ったら私の決意も軽いものだと思われてしまうし、何よりエルシスの傍にいられる。
エルシスなら記憶喪失の私を見捨てたりはしないから……
「…エルシスを利用した…。私があなたの傍にいるために記憶喪失と勘違いしたエルシスを利用したの」
「…っ!!」
エルシスは傷ついたように私を見る。
「嘘だろ……?」
嘘………
嘘だと言えたならどんなに良かっただろう……