巫女と王子と精霊の本
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鈴奈が魔女に連れていかれて早くも一日が経った。
俺達は砦の前までやってきた。
「鈴奈………」
あの手を掴めなかった。すり抜けていったあの瞬間、恐怖でどうにかなってしまいそうだった。
今まで、何かを怖いと思う事はあまりなかった。なのに………
―怖かった。
失ってしまう恐怖とはこういうものかと実感した。
『エルシス!ここに鈴奈の気配があるよ!』
フェルがふわりと飛んで砦を指差す。
間一髪っフェルを助けだせたのが良かった。でなければ鈴奈との繋がりが経たれてしまう。
そうなったら……二度と会えないかもしれない。それが堪らなく怖い。
「早く行こう、鈴奈が無茶しないうちに取り返さないと」
セキのやつ、いつも余裕そうだが、今は焦っているみたいだな。
「そうだな、行くぞ」
剣を構えて俺達は砦へと入る。
「やぁ、来たのかい」
―グワンッ
歪んだ空間の中から魔女が現れる。
「鈴奈を返せ、魔女」
切っ先を魔女へと向けて睨み付けると、魔女は楽しそうに笑った。
「竜の暴走を止めに私の所に来たんじゃないのかい?」
…そうだった。俺は竜を止める為にここへ来たはずだった。
それがいつの間にか鈴奈を取り返す事しか考えていなかった。
「……国も鈴奈も取り返す為にここへきた!!大人しく返せ!!」
「おや、これは面白くなりそうだねぇ…。一つ忠告しておこう、あの娘に少しでも惹かれているのならその気持ちは今のうちに封をするんだね」
惹かれているのなら………
俺は鈴奈に惹かれている……?
今まで誰かに好意を抱いた事はない。
だが………
鈴奈の事は違う。
俺は鈴奈の存在を深く知りたいと思っている。
俺は……鈴奈に惹かれている…
「封をしなきゃいけないのは、鈴奈が異世界の人間だからか?」
「それもあながち間違いじゃないけどねぇ…。お前の、その想いが娘を追い詰める事は確かさ」
魔女の言葉はまるで呪いのようだ。
「それ、なんの根拠があるわけ?鈴奈の想いも王子の想いも抱くのは自由だろ?」
セキが冷たい瞳を魔女へと向ける。
『……でも…。鈴奈はずっとこの世界にいられるわけじゃない』
フェルは悲しげに眉を下げた。
ずっと一緒にはいられない。
そう言われたも同然だ。
鈴奈がいなくなるなんて考えても想像出来ない。
それほどまでに鈴奈は俺の中でも大きな存在だったのか……