巫女と王子と精霊の本
「風が強いな……」
バルバレーの丘を目指しながら、エルシスは私に声をかけてくる。
「うん…。逃げてくる途中で足を怪我した人が多いから、私少し見てくるね」
「いや、俺が…」
そう言って引き留めるエルシス王子に首を横に振った。
「駄目。エルシス王子が前を歩いて。王子が前にいれば、皆安心してついていけると思うから!!」
私では皆を引っ張っていけない。
エルシス王子だから皆はまた頑張ろうと思ったんだ。
「…わかった。お前も無理するな」
「ありがとう」
お礼だけ言い残し、私は怪我人の元へと向かった。
「あの、痛みますか?」
「あぁ、すまない。右足が少しな」
「私の手を掴んで下さい」
私は怪我をしている男性に手を貸す。
「ありがとう、女の子にこんな…」
「気にしないで下さい。助け合うのに女も男もありませんから」
それにしても……大丈夫かな…。
さっきから潮の匂いが近い。このままのペースで間に合うかな…。
「危ない!!!」
列の誰かが声を上げる。
その瞬間、私達の前に木が倒れてくるのが見えた。