巫女と王子と精霊の本
「…いや、何でもない。国が心配だ、早く戻ろう」
そうだ、私達は砦の魔女を止めに……
「魔女は……」
私の言葉にエルシスは苦しげに顔を歪めた。
「悪かった…」
その言葉で理解する。
魔女はもう………
「…そう…。どうしたらいいんだろうね…。どうしたら悲しみを、憎しみを消せるんだろう…」
傷付け合わなくてすむんだろう…
「それはまず魔王を倒す事じゃない?」
セキが私達の肩を軽く叩く。
「…でも…魔王を倒して、今度は誰に恨まれるんだろう」
こうやって怨恨は続いていく。
それでは意味無いんじゃないかな?
「鈴奈は優しすぎるよ。魔王にまで情けをかける必要ないと思うけどね」
「情け…というより、繰り返したくないの。その度に戦争が起きて、たくさんの人が死ぬなんて嫌だから…」
私の大好きな世界が幸せになってほしい。悲しみだけの世界にしたくない。
「そうだな…。俺達は終わらせなければならないのかもしれない。血を血で洗い、憎しみが憎しみを生み出す連鎖を…」
エルシスは私の手をとり真っ直ぐに見つめてくる。
「俺達が道を間違えた時、お前が止めてくれないか?俺達を導いてくれ」
エルシス………
『導いてくれ』、何度聞いた言葉だろう。エルシスに必要とされる度に私も私自身が目指すものは何か、見失わずにすんだ。
「もちろんだよ、エルシス。私はエルシスの道になるから…」
エルシスが私を必要とするかぎり、あなたの傍に……
「傍にいてくれ、鈴奈…」
「うん、エルシス」
例え終わりが来るのだとしても、今はただあなたの傍にいたい。