巫女と王子と精霊の本
「きゃー、最低よ」
「な、なんだ急に」
セキが俺の前まできて女言葉で俺を睨みつける。
「エルシス王子って女の子なら誰でもいいのかなぁ?」
「は、はぁ?何の話だ」
なんでそんな話になる??
「はぁ、気づかないわけ?」
「気づかないって……鈴奈は!?」
先程までそこにいたはずの鈴奈の姿が無い。
「なんでも、セレナに用事があるからって広間から出てったよ」
「セレナにか?セレナは広間で給仕の仕事をしているはずだぞ?」
あいつだってそんな事知ってるはずじゃ…
「なんでだろうね?自分の胸に聞いてみたら?」
「な、どういう意味だ」
「鈴奈の事、ちゃんと見てなよ。鈴奈の事が好きなら尚更ね」
好きなら…………
俺は…鈴奈を好いているんだと思う。
だがあいつはいつか……
いつかいなくなる……
「ちゃんと見てないと、いつか消えちゃうよ?引きとめるぐらいの気持ちがないなら、悪いけど王子には譲れない」
「セキ…………」
こいつ、本気で鈴奈を…………
心のなかに焦りと苛立ちが沸き上がる。
「っ……お前には渡さない」
「なんで?」
渡さない…いや、違うか。
渡したくないんだ。
「俺が…お前に渡したくないからだ」
「ふっ、なら追いかけなよ」
「…お前…いいのか?」
こいつだって鈴奈の事……
「本当はものすっごぉぉーーーく!!嫌なんだけどね、王子じゃなきゃ駄目なんだと思うから、早く行きなよ」
「あ、あぁ。すまない」
…お前が嫌なのはよくわかった。
だが、こればかりは譲れない。
駆け出したエルシスの後ろでセキは溜め息をつく。
「損な役割だ、面白くないねぇ」
そう言いながらもセキはエルシスの背中を寂しそうに見つめた。